飲食店経営ラボ

売上に占める人件費は何%が適正?30%以内に抑える3つの考え方

月末に数字を見るたび、頭を抱える店長は多い。

売上は前月並みなのに、なぜか手元に残るお金が少ない。原因を探ると、人件費が売上の35%を超えている。「人件費は30%以内に抑えろ」とよく言われるが、実際の現場ではそう簡単にいかないのが現実だ。

なぜ人件費30%は「理想」で終わってしまうのか?

「売上の30%以内」という目安は、確かに経営の教科書に載っている。しかし、この数字だけを追いかけていると、かえって店の運営が回らなくなる場合がある。

ある駅前の居酒屋(40席)の店長は、人件費を28%まで削ったことがあったそうだ。数字上は理想的に見えたが、結果として何が起きたか。ピーク時間帯にホールが1人足りず、お客さまを10分以上お待たせする日が続いた。その月の売上は前年同月比で15%も下がってしまったという。

人件費率だけを見て人を減らすと、売上自体が下がる。これは多くの店長が経験している矛盾だろう。

なぜこうした問題が起きるのか?答えは「人件費30%」という数字の捉え方にある。

適正な人件費は「売上規模」と「営業スタイル」で決まる

人件費の適正比率は、実は店によって違う。月商300万円の店と月商800万円の店では、同じ30%でも意味が全く異なるからだ。

売上規模別の人件費の考え方

月商300万円以下の小規模店では、人件費25〜28%が現実的なラインだそうだ。これは固定費(家賃、光熱費)の割合が大きく、人件費で調整するしかないためらしい。一方で月商800万円を超える店舗では、人件費30〜35%でも十分に利益を確保できる場合が多いという。

営業スタイルも大きく影響する。テーブルサービスが中心の店とカウンター中心の店では、必要な人員が全く違う。都内のあるカウンター焼肉店(12席)では、人件費率18%で効率良く回しているという話もある。逆に、ファミリー向けの大型店舗(80席)では、人件費35%でも適正と判断している例もあるそうだ。

重要なのは「30%」という数字に縛られすぎず、自分の店に合った基準を見つけることだ。

では、どのように人件費を最適化していけばいいだろうか。

人件費を最適化する3つの視点

視点1:時間帯別の売上データを分析する

人件費の無駄を見つける最も確実な方法は、時間帯別の売上分析だ。多くの店で「なんとなく」で人員配置を決めているが、実際のデータを見ると意外な発見がある。

ある定食店(30席)では、平日14時〜17時のアイドルタイムに3人配置していたそうだ。しかし実際の売上を見ると、その時間帯の売上は1日の12%程度。2人体制に変更したところ、月の人件費が8万円削減できたという。

厚生労働省の調査によると、飲食業の時間帯別生産性は最大で3倍の差があるとされている。つまり、忙しい時間帯とそうでない時間帯で、同じ人数を配置するのは非効率ということだ。

データ分析のポイントは以下の通りだ:

  • 平日・休日別の時間帯別売上
  • 客数と客単価の推移
  • スタッフ1人当たりの売上(人時売上高)

この分析を月1回行うだけで、人件費の無駄を5〜10%削減できる可能性があるという。

視点2:「固定人件費」と「変動人件費」を分けて考える

人件費をもっと戦略的に管理するなら、固定人件費と変動人件費に分けて考える方法がある。

固定人件費とは、店長や正社員などの基本給部分。変動人件費は、アルバイトの時給やピーク時の応援スタッフにかかる費用だ。

神奈川のあるラーメン店(20席)では、この考え方を導入してから人件費の管理が劇的に改善したそうだ。固定人件費(店長+調理担当の正社員)を売上の18%に設定し、残りの部分を変動人件費として柔軟に調整する仕組みを作った。

繁忙期は変動人件費を15%まで上げて十分な人員を確保し、閑散期は8%程度に抑える。年間を通して見ると人件費率は28%に収まり、かつサービス品質も維持できているという。

この方法の利点は、売上の変動に応じて柔軟に人件費をコントロールできることだ。特に季節変動の大きい店舗では効果的だそうだ。

視点3:「見えない人件費」まで含めて計算する

多くの店長が見落としているのが「見えない人件費」だ。基本給や時給以外にも、実は人件費に含めるべき項目がある。

見えない人件費の例

  • 募集・採用にかかる費用(求人広告費、面接時間)
  • 研修・教育にかかる時間コスト
  • 有給休暇の人件費
  • 社会保険料の事業主負担分

ある居酒屋チェーン(100店舗規模)の人事を担当している人の話では、これらの「見えない人件費」を含めると、実際の人件費は表面的な数字より2〜3%高くなるケースが多いそうだ。

例えば、時給1,000円のアルバイトでも、社会保険料や研修コストを含めると実質的には時給1,150円程度のコストがかかっている計算になるという。

この現実を踏まえて人件費を管理すると、より正確な経営判断ができる。表面上の人件費率が28%でも、実質的には31%になっている可能性もあるからだ。

人件費最適化で本当に重要なこと

人件費の管理で最も大切なのは、数字だけでなく「スタッフのモチベーション」とのバランスを取ることだ。

無理に人件費を削って現場が回らなくなったり、スタッフが疲弊して離職が増えたりすれば、結果的にコストは上がってしまう。飲食業界の平均離職率は約75%(厚生労働省調査)と高く、1人の離職にかかる採用・研修コストは約30万円とされている。

人件費30%という数字は一つの目安として持ちながらも、自分の店の売上規模、営業スタイル、地域特性に合わせて柔軟に調整することが大切だ。

まずは現在の人件費内訳を正確に把握することから始めてみてほしい。意外な無駄や改善ポイントが見つかるかもしれない。