飲食店経営ラボ

飲食店の利益率を左右する「見えない時間コスト」の正体

月末の金曜日。シフト表を前に頭を抱える。

バイトからの希望シフトは紙とLINEでバラバラに届き、転記作業だけで1時間。急な欠勤の穴埋めで店長が深夜まで残業。気がつけば人件費は売上の35%を超えている。

「売上は悪くないのに、なぜか手元にお金が残らない」

こんな状況に心当たりがある店長は多いのではないでしょうか。実は、利益率を決定的に左右しているのは原価率や家賃だけではありません。もっと身近なところに、見過ごされがちな「時間コスト」が潜んでいます。

坪月商42万円を実現した店舗の「脱属人化」戦略

都内のある居酒屋(15席)では、2年前に組織改革を実施し、坪月商42万円という高収益を実現したそうです。

この店舗が着手したのは「脱属人化」。それまでは店長がシフト作成から売上管理まで全てを抱え込む典型的な属人的運営でした。しかし、数字に強い組織への転換を図ったところ、利益率が大幅に改善したといいます。

具体的には、現場スタッフに裁量を与える評価制度を導入し、シフト管理の一部をバイトリーダーに委譲。店長の業務時間を週15時間削減したとのこと。浮いた時間で売上分析や仕入れ最適化に集中できるようになり、結果として経営の透明化が進んだそうです。

では、なぜこの「脱属人化」が利益率向上に直結したのでしょうか?

月80時間のシフト管理が生む「見えない損失」

ある専門誌の調査によると、飲食店の店長は毎月平均15時間をシフト管理に費やしているといいます。しかし、これは表面的な数字に過ぎません。

実際には、希望シフト回収の催促、転記作業、調整業務、欠員対応を含めると月80時間に達するケースもあるとか。時給1,500円で換算すれば月12万円、年144万円の人件費です。

さらに深刻なのは機会損失です。シフト管理に追われる店長は、本来やるべき経営判断の時間を失います。売上分析、メニュー改善、原価管理、スタッフ教育。これらに使えたはずの時間が、単純作業で消えていく。

ある中華料理店(20席)の店長の話では、シフト管理の効率化で浮いた時間を使って仕入れルートを見直したところ、原価率が32%から28%に改善したそうです。月商200万円の店舗なら、年96万円の利益改善。シフト管理の時間短縮が、直接的に利益率向上につながった事例です。

人件費30%以内を実現する「効率的シフト管理」の正体

飲食店経営において、FLコスト(食材費+人件費)を50〜60%以内に抑えることが利益率確保の基本といわれます。特に人件費は30%以内が目標値とされていますが、これを達成している店舗は意外に少ないのが実情です。

理由の一つが、シフト管理の非効率性です。

紙とLINEが混在する希望シフト回収。転記ミスによる配置ミス。急な欠勤での店長の穴埋め出勤。こうした属人的な管理体制では、人件費の正確な把握も予算管理も困難になります。

一方、シフト管理を効率化した店舗では、人件費の可視化が進みます。週単位、日単位での人件費予算を設定し、それに基づいてシフトを組む。結果として、計画的な人件費コントロールが可能になり、30%以内の目標達成率が大幅に向上するといいます。

ある導入事例では、シフト作成時間が5分の1に短縮され、月80時間の業務削減を実現。浮いた時間を活用して売上向上施策に注力し、売上が3%アップしたという報告もあります。

人件費削減と売上向上。一見矛盾するようですが、効率的なシフト管理がもたらす時間的余裕が、両方を可能にしているのです。

2035年労働力危機に備える「今できること」

厚生労働省の労働経済分析によると、2035年には小売・サービス分野で深刻な労働力不足が予測されています。パーソル総合研究所の調査では、1日あたり1,775万時間の労働力不足が見込まれるとか。

特に飲食業界では、掛け持ちアルバイトが他職場を優先するケースが増加。シフト決定の遅れが人手不足スパイラルを生み、結果として人件費上昇と利益率低下を招く構造的課題が深刻化しています。

この危機に対応するため、今から着手すべきは3つです。

まず、希望シフト回収の仕組み化。紙、LINE、口頭の混在を統一し、転記ミスをゼロにする。次に、シフト作成の時間短縮。テンプレート化や自動化により、店長の負担を軽減する。最後に、緊急時対応の体系化。急な欠勤に対する対応ルールを明文化し、属人的な判断を減らす。

これらの改善により、店長は本来の経営業務に集中でき、結果として利益率の持続的改善が期待できます。

明日から実践できる「利益率改善」の第一歩

利益率を改善するために、明日から試せることが2つあります。

一つ目は、シフト管理にかかる時間の計測です。希望回収、調整、作成、共有、欠員対応。それぞれにかかる時間を1週間記録してみてください。想像以上の時間を費やしていることに驚くはずです。

二つ目は、その時間を「時給換算」することです。月80時間をシフト管理に使っているなら、年144万円のコスト。この数字を原価率改善や売上向上に振り向けられたら、どれほどの効果が生まれるか想像してみてください。

計測なくして改善なし。まずは現状を「見える化」することから始めてみませんか。利益率を左右する見えない時間コストの正体が、きっと見えてくるはずです。