飲食店経営ラボ

飲食店の人手不足は『個店の努力不足』ではない。2035年384万人不足の構造的課題と今すぐできる5つの対策

2035年384万人不足。飲食店の人手不足は『構造的課題』だという現実

「うちの店だけバイトが集まらないのかな」

月末のシフト表を前にして、こんな風に自分を責めている店長はいませんか。でも実は、これは個店の努力不足でもなければ、あなたの店の魅力が足りないわけでもないんです。

2035年には384万人の労働力不足が見込まれています。これは2023年の1.85倍の規模。特に小売・サービス分野では、半数以上の事業所が人手不足に直面するという予測があります。

つまり、人手不足は『構造的な課題』。社会全体で起きている変化なんです。

なぜ飲食業界の欠員率は全産業の2倍なのか?

農林水産省の調査によると、飲食店・宿泊業の欠員率は全産業比で2倍以上。これだけ見ると「やっぱり飲食業界に問題があるのか」と思ってしまいますが、実はもっと深い理由があります。

ある都内で居酒屋を3店舗展開している企業の人事担当者は、こんな話をしていました。

「以前は『時給を上げれば人が集まる』と思っていたんです。でも実際に時給を100円上げても、応募はほとんど増えませんでした。問題は時給ではなく、働き方そのものにあったんです」

この企業が気づいたのは、シフト管理の属人化でした。店長が紙とLINEでバラバラにシフト希望を集め、深夜まで調整作業をしている姿を見て、「こんな働き方では人は定着しない」と感じたそうです。

では、なぜこうした構造的な問題が生まれるのでしょうか?

年収の壁が作り出す『働きたくても働けない』現実

実は、パート・アルバイトが働き過ぎない理由の一つに『年収の壁』があります。

106万円の壁(従業員51人以上の企業)と130万円の壁(従業員50人以下の企業)。この壁を超えると社会保険料の負担が発生するため、多くのパート・アルバイトは意図的に労働時間を調整しているんです。

でも、政府の『年収の壁・支援強化パッケージ』により、キャリアアップ助成金(最大50万円)を活用した対策が可能になりました。手当支給、労働時間延長、併用メニューなど3つの支援メニューがあり、2026年3月末までの時限措置として実施されています。

「助成金なんて手続きが面倒そう」と思うかもしれませんが、実際に活用した店舗の話を聞くと、意外にシンプルだったそうです。ある20席程度のイタリアンでは、この制度を使って主力バイトの労働時間を週3日から週4日に増やし、結果的に新人採用の負担が軽減されたらしいです。

シフト作成に2時間以上かける店長の『見えない損失』

「シフト作成なんて30分もあれば終わる」と思っている店長もいるかもしれませんが、実は多くの店舗でシフト作成に2時間以上かかっているのが現実です。

なぜこんなに時間がかかるのか。理由は属人化にあります。

紙で希望を集める店舗では、提出忘れのバイトへの催促、手書きの文字の判読、急な変更への対応、これらすべてが店長の手作業。LINEで希望を集めている店舗でも、個別のトーク画面を開いて一つ一つ確認し、Excelに転記する作業が発生します。

ある調査では、LINE連携のクラウドシフト管理システムを導入した店舗で、月80時間のシフト関連業務削減を実現したというデータもあります。希望シフトの自動回収・転記、確定シフトの一括通知、自動リマインド機能により、店長の負担が大幅に軽減されたそうです。

月80時間といえば、店長の時給を2,000円として計算すると月16万円分の工数。年間で約200万円の『見えない損失』を避けることができる計算になります。

定着率80%を実現した成功事例から学ぶ3つの要素

スタッフ定着率約80%を実現している店舗があります。門前仲町にある居酒屋での成功事例ですが、この店舗が実践しているのは3つの要素の組み合わせでした。

1つ目は属人化の脱却。 シフト管理から教育、発注まで、すべてを「店長の経験と勘」に頼るのではなく、誰でもできる仕組みに変えていったそうです。

2つ目は評価制度の導入。 「頑張り」を感覚で評価するのではなく、売上貢献度、接客品質、後輩指導など具体的な指標で評価し、昇給に反映させる仕組みを作ったらしいです。

3つ目は採用戦略の工夫。 求人サイト一本ではなく、SNS採用、スポット採用、既存スタッフからの紹介制度など、多元的な採用手法を組み合わせているそうです。

この店舗のオーナーは「最初の1年は大変だったが、2年目以降は採用コストが半減した」と話していました。定着率が上がると、新人教育の頻度も下がり、結果的に既存スタッフの負担も軽減される好循環が生まれたとのことです。

今週からできる人手不足対策5選

構造的な問題だからといって、何もできないわけではありません。今週から始められる対策を5つ紹介します。

1. シフト希望の締切を『見える化』する LINEグループやホワイトボードに締切日を明記し、提出状況を可視化するだけで催促の工数が激減します。

2. 急な欠勤対応の『仕組み化』 欠勤が出た際の代替要員リストを作成し、連絡手順をマニュアル化。個別連絡に頼らない体制を構築しましょう。

3. スキル・時間帯配置の『データ化』 「なんとなく」でシフトを組むのではなく、スタッフごとのスキルレベルと時間帯の忙しさをデータで管理することで、効率的な人員配置が可能になります。

4. 年収の壁対策の検討 キャリアアップ助成金の活用を検討し、主力バイトの労働時間を増やせないか検討してみてください。

5. 採用方法の多元化 求人サイト以外にも、SNS採用、地域の掲示板、既存スタッフからの紹介制度など、複数の採用チャネルを試してみることをおすすめします。

これらの施策を全て一度に実行する必要はありません。まずは1つか2つから始めて、効果を確認しながら徐々に拡大していけばよいのです。

人手不足は確かに構造的な課題です。でも、その中でもできることはたくさんあります。「個店の努力不足」と自分を責めるのではなく、社会全体の変化として受け入れ、その上で自分の店でできる改善を積み重ねていく。

そんなアプローチが、この時代の飲食店経営には必要なのかもしれません。