飲食店経営ラボ

大手が初任給32万円の時代。個人店が人材を確保するたった1つの方法

大手飲食チェーンが初任給32万円を打ち出している。個人店の店長にとって、この数字は絶望的に映るかもしれない。しかし、本当に給与だけが勝負なのだろうか。

ゼンショーやすかいらーくなど外食大手が2026年春闘で高水準の賃上げを実施したという話を聞いて、「もう個人店に勝ち目はない」と感じた店長も多いはず。けれど、実際に現場で働くスタッフの声を聞いてみると、意外な真実が見えてくる。

なぜ高時給でもスタッフが辞めるのか

結論から言うと、スタッフが求めているのは「高い給料」だけではない。

都内のあるイタリアン(20席)の店長から聞いた話だが、時給1,200円で募集をかけても応募が来ない一方で、時給1,000円のカフェに人が集まっているという現象が起きているそうだ。その差は何か。答えは「働きやすさ」だった。

時給1,000円のカフェは、シフトの希望がLINEで簡単に出せて、急な変更にも柔軟に対応してくれる。一方、時給1,200円のイタリアンは、シフト表が紙で管理されており、希望を出すのも面倒、変更も難しい。

スタッフにとって200円の時給差よりも、「この店は私の都合を理解してくれる」という安心感の方が価値があったのだ。

では、個人店が大手に対抗するために、どこに投資すべきなのか。

「働きやすさ」こそ個人店の最大の武器

個人店の強みは、スタッフ一人一人との距離の近さにある。大手チェーンでは実現できない、きめ細かい対応ができる。

厚生労働省の調査によると、飲食業・宿泊業の離職率は全産業平均の約2倍。その理由として「労働時間・休日等の労働条件が悪い」が上位に挙がる。しかし、これは必ずしも「長時間労働」を意味しない。「予定が立てにくい」「急な変更に対応してもらえない」といった、シフト管理の問題が大きい。

ある居酒屋(従業員15名)では、シフト管理をLINE連携システムに変えただけで、離職率が40%から15%まで下がったという話もある。初期費用は月額3万円程度だったそうだが、採用コストの削減を考えれば十分にペイしたとのことだった。

スタッフが「この店で働き続けたい」と思う理由は、時給の高さではなく、自分の生活スタイルを尊重してもらえるかどうかなのかもしれない。

大手の真似をしてはいけない理由

「大手が32万円なら、うちも頑張って28万円で」と考えるのは危険だ。

大手チェーンのビジネスモデルは、標準化されたオペレーションによる効率化で成り立っている。人件費を上げても、システム化による生産性向上でカバーできる構造になっている。

しかし個人店は違う。客単価1,200円でも月商1,000万円を実現している都内のピザ店があるが、これは1/8カットでの提供というユニークな戦略によるものだった。個人店は大手と同じ土俵で戦うのではなく、独自の価値を作ることで勝負すべきだ。

人件費を無理に上げて経営が苦しくなれば、結局スタッフにも迷惑をかける。それよりも、限られた予算の中で「働きやすさ」を最大化する方が現実的だ。

FLコスト(人件費+食材費)の適正ラインは売上の50〜60%。人件費は30%以内が理想とされるが、これを守りつつスタッフの満足度を上げるには、効率化による時間の余裕創出しかない。

今すぐできる「働きやすさ」改善策

明日からでも実践できる改善策を3つ紹介したい。

1. シフト希望の提出方法を見直す 紙の提出からLINEやメール送信に変えるだけで、スタッフの負担は大幅に軽減される。店長の集計作業も楽になる。

2. 急な欠勤への対応ルールを明文化 「体調不良の場合は2時間前までに連絡」「代わりを見つけなくてもよい」など、明確なルールがあるとスタッフは安心して働ける。

3. スタッフの希望を積極的に聞く 「来月、友人の結婚式があるので土曜日を休みたい」といった個人的な事情に、できる限り対応する。完璧でなくても、「聞いてくれた」という事実がスタッフの満足度を上げる。

これらは投資コストゼロで実施できる。大切なのは、スタッフを「労働力」ではなく「一緒に店を作る仲間」として見ることだ。

大手が32万円を提示する時代だからこそ、個人店は違う価値で勝負する。それが結果的に、本当に店のことを考えてくれるスタッフとの出会いにつながるはずだ。